馬耳風風 (ばじ カザフう)

2016年7月末〜 2018年8月 モスクワ/2018年10月〜 カザフスタンのアスタナ

ボヘミアン・ラプソディー

Привет!

ついにカザフスタンで映画デビューしました。私にとってロシアで初めて見た映画だった「ファンタスティックビースト」の二作目がちょうど今公開されていて、二年で映画に行くのもかなりハードルが下がったことを思うと感無量です。と、こう書くと見に行ったのはファンタスティックビーストのようですが、今回見たのはボヘミアンラプソディーでした。そしてこの国でクイーンの、というよりはフレディ・マーキュリーの物語を見たことで思うところがありましたが、それについて書こうと思うとどうしても内容に触れるので、これから見に行くから一切情報を入れたくない、という方は見終わった後にもう一度来てください。そしてまだ見ていない方はとりあえず映画館に行ってください。いい映画でした。 アスタナには映画館が8つあり、そのうちの2館がIMAX上映を行っています。いろんなレビューを見ていると「とりあえずいい音響で見て」という意見が多かったので、ハンシャティールの近くにある「サリヤルカ」というショッピングセンターの中の映画館へ行きました。カザフスタンでの公開が11月1日だったので、かなり日もたっているからか二館とも上映は夕方6時以降のみ。それでも日に3,4回は上演していました。ロシアと同じ料金設定で、曜日や公開からの期間によって値段は変わります。ここでは1200テンゲ(400円)でチケットが買えました。え、400円でIMAX見ていいの?本当に?チケットを買うときには「ロシア語ですがいいですか?」と聞かれます。この映画館は英語でも上演しているので(たぶんロシア語字幕で)確認されたのだと思いますが、これまで映画を見に行くときは問答無用でその国の公用語だったので、言語を選択できるのが新鮮に感じました。ちなみにモスクワにも英語上映をしている映画館があるそうです。

各シアターの扉には眼光鋭いカザフスタンの戦士がこちらを見て立っています。カザフ映画のワンシーンなのか、このために撮られた写真なのかはわかりませんでしたが、入場開始まで待っている間はあまり落ち着きませんでした。 この扉以外は日本やロシアの映画館と何ら変わりはありませんでした。公開から20日近くたっているのに1列目以外はほとんど満席。クイーンってカザフでも人気なんだ!映画の評判サイトを見ているとかねがね高評価なので、もしかしたら評判を聞きつけた人たちなのかもしれませんが。とりあえず期待している映画に観客がたくさん入っているのは喜ばしいことです。上映前の予告はほとんどロシア映画で、戦争映画やホラー映画、いつもこの時期に公開している「クリスマスツリー(ёлка)」の最新作などでした。カザフのコメディ映画もありました。

さあ、20世紀フォックスのファンファーレ…ではなく、かのクイーンのメンバーが奏でているという20世紀フォックスのテーマがなって、気分が高揚します。本編が始まって食い入るように見つめていると、突然目の前を人が通りました。それ自体は別にあることなのでいいのですが、その人はあろうことか私の横で立ち止まると、隣に座っていた人に「ご注文のドリンクをお届けに来ました」というではありませんか。声量を落とすこともなく。映画館のスタッフとしてもう少し映画に敬意を払ってほしいなあ…と思いつつも、また映画の世界に戻ります。それ以降も「ボヘミアンラプソディー」を収録しているシーンで立ち上がってドリンクを買いに行く人がいたり、メンバーが喧嘩しているシーンでポップコーンをもって戻ってくる人がいたり、みんな自由でした。確かにお腹がすく時間ではあるけれど。そういえば、映画の前に「マナーを守りましょう」みたいなCMって流れなかったな。

そして何より驚いたのは、笑うタイミングです。確かにどこで見ても自分と笑うタイミングが違う人はいます。ここは日本ではないし、明らかに画面の中で笑わせるようなことを言っているのに私は理解ができなかったということもよくあるので(そういうタイミングの違いも実際に何回かありました)、ある程度は覚悟をしていました。しかし、フレディ・マーキュリーを描く上で彼が同性愛者だったことを抜きにはできません。そして旧ソ連圏と一概には言えませんが、モスクワでもカザフでも同性愛はあまり受け入れられていません。そういえばディズニーの実写映画「美女と野獣」もちょっと同性愛に関連した表現があるというだけで、PG‐16のマークがついていました。 mickymm.hatenablog.com

今回の映画は、一度2010年に企画が持ち上がったのにもかかわらずつぶれています。製作者や役者やクイーンメンバーの意見が食い違ったためです。その中の一つの争点に「年齢制限がつくかどうか」というものがあったそうです。メンバーは全年齢対象を目指していました。今公開されているものは日本では年齢制限がついていませんが、カザフでもロシアでも18歳以上の年齢制限がついています。とはいっても、行為をしているシーンがあるわけではありません。男性同士のキスが二回あるだけです。そしてドラッグも吸っているシーンはなく、示唆されるにとどまっています。私が見た回では、このキスシーンで爆笑が起きたのです。それらのシーンはどちらも気持ちが高ぶって思わずキスしてしまった、というような状況で、決して面白おかしく描かれていたわけではありません。ここで笑うのか…というのが一番びっくりしたことでした。

さて、私自身はクイーンの熱狂的なファンではありません。中学生で初めて英語に触れた時たまたま両親が聞いていたDon't Stop Me Nowのあまりのリズムの良さに「歌えるようになりたい!」と思い、毎朝聞いていたら隣の部屋にいた弟まで覚えてしまった、というようなエピソードくらいしかありません。それ以降ずっとアルバムJewelsの曲しか知りませんでしたが、映画を見に行くことにしてからは予習を兼ねてYOUTUBEで聞いていました。なんとYOUTUBEにはクイーン公式が全曲アップしてくれているのです。
映画自体はとてもテンポが良く、なおかつそれぞれのキャラクターに感情移入しながら見ることができました。ほとんどのレビューで書かれていますが、俳優さんたちの演技の凄さ!とくにギターのブライアン・メイは本人がタイムマシーンでやってきて演じているのでは、というくらい予習で見ていた本人にそっくりで、全く違和感がなかったです。おそらくクイーンがもとから大好きで、いろんなエピソードを知っている人には物足りなかったり、時系列が違っているのであまり入り込めないかもしれませんが、一本の映画として私は大満足でした。そして周りの観客に邪魔されようが構わず、映画の世界にどっぷりつかっていたので、最後のライブシーンはいろんな感情がこみあげてきて、思わず涙していました。歌詞を知っていたので余計に物語とリンクし(その効果を上げるために時系列を変えたのだと思いますが)、周りの観客と一緒に「We are the Champions」に耳を傾けているときなどは周りからもすすり泣きが聞こえてきたりして、本当にクイーンのライブ会場にいるような一体感を味わえました。そこで幕がおり、そのあとのクイーンやフレディ・マーキュリーについての字幕が出た瞬間、劇場の照明が点きました。何事もなかったかのように立ち上がって帰り支度を始める人たち。え、いや、さっきまでみんなでライブで盛り上がってたやん。みんなで心の中でこぶし振り上げてたやん。一体感を感じてたのは私だけだったのだろうか…と思っているとエンドロールと一緒に本物のクイーンのDon't Stop Me Nowのミュージックビデオが流れてきました。余韻に浸りたかったので、掃除のお兄さんが入ってきて掃除を始めようが知らぬ顔で席に座ってみていると、やはり同じような考えの人がもう4,5組席から立てずに映像に見入っています。君たちこそチャンピオンだ!

あとやはり、歌詞はロシア語で字幕を出すべきだったのではないでしょうか。日本では出ているのかな。それでもほとんどクイーンを知らない旦那も「ライブシーンは感動した」と言っていたので、いろんな人に響く映画なのではないかと思います。

長くなってしまいましたが、このあたりで! Пока!