馬耳風風 (ばじ カザフう)

2016年7月末〜 2018年8月 モスクワ/2018年10月〜 カザフスタンのアスタナ

ミュージカル『ノートルダムの鐘』

Привет!

今日は年がまだ明ける前の話です。ロシア語の先生から突然「ミュージカル見に行かない?演目は『ノートルダムの鐘』で、私の他の生徒も行くんだけど、もしよかったら」というメッセージが届きました。私はミュージカルが好きなので、二つ返事で「行きます」と返し、一緒に授業を受けている友達はミュージカルは苦手なようでしたが、挑戦するということで二人とも参加することになりました。旦那も初めは行くといっていたのですが、彼はあまり舞台が好きではない上に、事務のお姉さんも行きたいと言い出したので旦那の分の席を彼女に譲ることに。そこまで決まって、チケットを取ってくれた先生にお金を払うときになって衝撃の事実が明かされます。

「あ、これカザフ語だから」

…いやいや、先生ってロシア語の先生だよね?私たちにカザフ語を教えているわけじゃないよね?と問い詰めそうになる私たちに「あ、でもほらロシア語の字幕あると思うし」と先生。まあ、カザフ語のミュージカルなんてカザフでしか見ることができないし、いい経験になるかもしれない、と無理やり自分を納得させます。 会場はここ、アスタナにある奇妙な建物の一つ「平和と調和の宮殿」…通称「ピラミッド」(そのまま)。世界の宗教の指導者が会議をした時に使われたと聞いたことがあるのですが、今回はこの中の観光はできていないので、詳しいことはまた調べて書こうと思います。入ってすぐのロビーで先生と彼女の生徒さんたちと待ち合わせました。あってみるとその生徒さんたちはトルコ人だそうで、ロシア語は始めたばっかりなので通じないということでした。…そりゃトルコ人ならカザフ語のミュージカルでも見に来るよね、と少し不貞腐れた気分になります。カザフ語はロシア語よりもトルコ語に近いので、耳で聞くと大体理解できるのだそうです。現に彼らは先生とカザフ語で話していました。ロシア語と日本語しかわからない私たちにとっては圧倒的に不利な状況。 なぜか関係者入り口がある地下一階のみに置かれていた看板(を上からとったもの)。いよいよ開演時間になったので席に着きます。舞台の周りに字幕が出てきそうな機械が全くありません。先生、どうしろと…!もうこれは歌の世界に浸ろうと、ワクワクしながら待っていると会場が暗くな…らずに、舞台の上に司会者とスーツを着た男性が上がりました。そして司会者が「『ノートルダムの鐘』カザフスタンでの初演にようこそ!」とカザフ語→ロシア語の順で話してくれました。これ初回なのか。そして「これを記念しまして、カザフスタンの文化大臣からお言葉をいただきたいと思います」と続けるではありませんか。え、大臣!?ここ一般客入って大丈夫なの?大臣は「中央アジアで、初めて土地の言葉を用いた『ノートルダムの鐘』が上映されます!カザフ人のみで、カザフ語による、フランスの名作の上映は大変光栄なことです。フランスから作曲家や演出家にお越しいただき、尽力いただきました」というようなことをロシア語で話しています。そこはカザフ語ではないのか。カザフに住む人でもカザフ語のほうが得意な人、ロシア語のほうが得意な人、様々な人がいると聞きます。大臣は後者なのでしょう。そして次にフランス大使が通訳と共に登壇しました。いよいよ間違ったところに来てしまったのではないかと心配になります。フランス大使ははじめこそフランス語で、通訳がカザフ語に訳していましたが、スピーチのほとんどはカザフ語で行いました。所在なさげな通訳。一方で観客のカザフ人たちは大興奮。フランス大使が一文話すごとに歓声を上げます。やっぱりカザフ語も話せるほうがいいのかな。内容は全く分かりませんでした。

いよいよ会場が暗くなります。さて、これまでいろいろなミュージカルを見てきましたが、ノートルダムの鐘ははじめてだったので家を出る前に予習しました。もともとあるミュージカルなので、日本の劇団四季のように話の流れは変えずにカザフ語にしているのだろうという判断のもと、劇団四季のホームページにあるあらすじを読みました。 www.shiki.jp

幕が開くと青いコートを着た男性が朗々と歌い始めました。ステージの上には主人公カジモドの心の友だというガーゴイルの石像も置かれているので、彼がカジモドかな、と思いながら舞台を見つめます。もし彼がカジモドだったら全然醜くないけれど、むしろかっこいいのではないか、と思っていると一幕の中盤になってやっとあからさまに「醜い」人が出てきました。真っ赤なぼろを着て。ぼろ、という言葉のイメージを覆すような色合いなのですが、どう見ても彼がカジモドでしょう。じゃああの青いコートは誰だ…?と思っていると、カジモドを引き取った聖職者のフロローも、ジプシーのエメラルダも、警備隊長でエメラルダと恋に落ちるフィーバスも、なんならジプシーの人気者でフィーバスと対立してエメラルダを取り合う男性(おそらくオリジナルキャラ)まで出てくるではありませんか。言葉が分からないので青いコートの男性の立ち位置も分からないまま、休憩時間になりました。人物だけではありません。ストーリーも私が予習していったものを追っていくとどうしても話がつながらないのです。休憩時間になった瞬間友達と「今何がどうなっているの?」という話をしあいました。先生とは席が離れていたので聞きに行けなかったのです。 原作の「パリのノートルダム」のウィキペディアを見てみると、一番このストーリーが近いという結論になりました。ということは楽曲や衣装もすべてオリジナルか。そのためにフランスから人を呼んだのか。原作のストーリーに少し現代のデモのような要素を入れていたり、二人が心情を歌で吐露するところでは一人を影で表現していたりと工夫は見えるのですが、衣装の時代設定がバラバラなことと青コートの男性の存在意義に疑問を持ってしまったためにあまり入り込めませんでした。 そういえば現代的な解釈を入れてくるミュージカルはロシアでも見た気がします。 mickymm.hatenablog.com

普段であれば少々ストーリーが破綻していても、言語が全く分からなくても、歌の力で引き込まれるのですが、今回はあまりうまく作用してくれませんでした。今度は見たことがあるミュージカルのカザフ版に行ってみたいです。

後日、授業があったので先生に「あの青いコートは誰ですか」と聞いてみると、「私もよくわからなかったけれど、あなたたち原作は読んだことある?ビクトル・ユゴーの作品よ!名作だからぜひ読みなさい。私が若い頃はテレビも携帯電話もなかったからみんなの楽しみは本かダンスパーティーだったのよ」と強引にごまかされました。先生も分からなかったのか。

Пока!