馬耳風風 (ばじ カザフう)

2016年7月末〜 2018年8月 モスクワ/2018年10月〜 カザフスタンのアスタナ

タクシーの運転手との会話

Привет!

先日、タクシーに乗るとロック調の曲が流れていました。聞くともなしに聞いていると、歌詞の90%が「冬は~寒い~♪」で、覚えようとしなくても一度聴いたら歌えそうな曲なのに、運転手さんはハミングにとどめています。いっそのこと歌い上げてくれたらこちらも気持ちいいのに。やっとその曲が終わりました。次は「夏は暑い」かな、と思っていると聞き覚えのある前奏が…。なんと乗車していた20分間、ひたすら「冬は寒い」という分かり切ったことを聞かされ続けました。「この曲好きなんですか?」という言葉がのどまで出かかっていましたが、運転手さんのハミングを止めてまで質問しなくても答えはわかっているような気がして聞けませんでした。

メトロがないこの国では、自分の車がない場合の移動手段はバスかタクシーになります。バス停で10分以上待つのが厳しくなってきたこの季節はやはりタクシーが便利なうえに、日本やモスクワに比べると安いのでかなり利用しています。初乗りはタクシーアプリによりますが私が使っているYandexは250円ほど。これでも値上がりしたそうです。そしてアスタナの街自体が小さいので、渋滞しやすい時間帯でなければこの初乗り料金でほとんどの場所に行けてしまいます。朝や夕方など混む時間帯でもだいたい400円もあれば大丈夫です。

もちろん運転手さんによりますが、助手席に座るとよく話しかけてくる印象があります。ほとんどの場合、はじめは「どこから来たんですか?」と聞かれ、日本だと答えると「初めて日本人に会いました!」と言われます。場合によっては名前を聞かれ、運転手さんも名前を言い、握手を求められます。お願いだから両手でハンドルを握ってください。そこからは日本についていろいろと聞かれます。アニメや日本文化が好きだ、という人の中には少し日本語も知っていたりして、その知識があっているか、正しい発音ができているかなどを熱心に聞いてくる運転手さんもいました。この日本に関する質問でカザフスタンの人々にとって日本がどんな印象なのかが分かって面白いです。おそらくこれまで興味を持ってこなかった人は「学校で日本について習ったのを思い出しました!えっと、北京とか東京とかソウルとかって日本のどこにあるんですか?」という、どこから突っ込んだらいいか分からない質問を繰り出しました。それでも、私が日本にいたときにカザフ人に会っていても同じレベルの知識しかなかったような気がします。そう思うと、ひたすら自分の知っている日本の地名を列挙されるのもうれしいものです。どんな反応をすればいいか悩みますが。 ほかにも「いま日本って何度くらい?」とか「アスタナと東京どっちが素敵だと思う?」「医者や教師の月収ってどれくらい?」「物価は?」などはよく聞かれます。ほかの変わり種は「映画『ラストサムライ』がすごく好きなんだけれど、あれはやっぱりアメリカによってかなり脚色されているんですか?」(好きだというので夢を壊さないようにするべきか悩みました)や「日本人って何の肉を食べるの?」などがありました。ちなみに「カザフでよく食べられている馬は、日本では一部の地域でしか食べられていないし、生で食べるんですよ」というと大体良い反応が返ってきます。食べ物といえば、昨日「お勧めの日本食は?」と聞かれたので「寿司」と答えると「あー、僕は魚は好きなんだけど寿司は苦手で…もしかしたらまだ本物の寿司に出会っていないからかもしれない…」とジョージア人の運転手に言われました。カザフではいい魚が手に入らない、ということで盛り上がって面白かったです。彼はジョージア人だということもあり、今年優勝した力士の栃ノ心について熱く語っていました。

アスタナは今年が遷都されて20年だということで、かなり新しい街です。私ばかり「どこの出身ですか」と聞かれるのも飽きてきたので、運転手さんたちにも聞いてみることにしました。そうするとやはりアスタナで生まれ育った人はほとんどおらず、引っ越してきてどれくらい?と聞くと「長いよ、3年」だったり「5年」などの答えが返ってきます。出身地は皆それぞれで、カザフスタンの南の小さな村だったり、ロケットの発射基地があるバイコヌールだったり、中央アジアの他の国だったり、そして多いのが出身は韓国やロシアの街でも「ソ連時代に強制移住でカザフスタンに来た」という話でした。中には「ソ連時代は政府の命令で両親や祖父母に連れられてタジキスタンやカザフスタンの街を転々とした」という人もいました。子供たちの教育のためにアメリカや韓国、ドイツで働いたことがある、という人も。「祖国がどこか分からない」と言われたこともあります。自分が全く経験してこなかったり、これからも経験できないようなお話を聞けるので、いつもワクワクしながらタクシーに乗りこみます。

時々政治の話にもなります。カザフスタンの目覚ましい成長に誇りを持っている人、その裏で広がる経済格差に憤る人、様々です。そしてその流れで日本の今の状況についても聞かれるので、ちゃんと勉強しておかないといけないな、と気を引き締める思いで車を降りることもあります。 最近のアスタナの路上(雪が多く降った次の日です)。最近はインターネットでなんでも調べられますが、直接会話しないと分からない空気もあるな、と実感する毎日です。

Пока!