馬耳風風 (ばじ カザフう)

2016年7月末〜 2018年8月 モスクワ/2018年10月〜 カザフスタンのアスタナ

D10 World

Привет!

気が付けば今週末はもう12月なんですね。10月1日にこちらに来たので、11月の初めのほうは「アスタナに来てどれくらい?」と聞かれたときに「一か月です」と答えていたのですが、そろそろ通用しないということに気が付いたので昨日から「二か月くらいです」に変更しました。

先週のことになりますが、MEGA Silkway(ショッピングセンター)で開催されていた「D10 World」に行ってきました。 カザフスタンに赴任が決まった日、それはもうインターネットで「カザフスタン」について調べました。とりあえずウィキペディアで国の基本情報を押さえて、アスタナを画像検索してはその近未来感に驚き、ロシアでよく見ていた旅番組のアスタナ編を見て「人が少ない!」という情報にすこし安堵しつつ…というところで「エンターテイメントは?」ということが気になりました。調べている中でわかったのが、カザフスタン出身で2014年のソチオリンピックで銅メダルを取ったデニス・テン選手が毎年「Denis Ten & His Friends (Денис Тен и Его Друзья)」というアイスショーをアスタナで行っている、ということでした。デニス・テン選手といえば、去年モスクワで行ったロステレコム杯のエキシビションで見た選手です。「カザフスタンからもスケート選手が来ているのか!」と驚いたのをよく覚えています。 mickymm.hatenablog.com モスクワでアイスショーの楽しさに気づき、しかもこのショーではデニスと交流の深い浅田真央選手や高橋大輔選手、織田信成選手もよく参加していると聞いたので来年が楽しみで仕方ありませんでした。

そんな中、7月19日、イギリスのホームステイ先で晩御飯を待っている間にふと携帯電話を見ると、デニスが亡くなったというニュースが飛び込んできました。アルマトイで彼の車のミラーを盗もうとした暴漢に抵抗して刺されたそうです。突然の訃報に少し呆然としてしまいました。それから事件について調べれば調べるほど、彼がどれほどカザフスタンを盛り上げようと頑張っているか、いろんな人からの人望が厚いか、そしてどれほど才能にあふれていたかがうかがい知れて、もっと早く注目しておくべきだった後悔しています。先述したアイスショーも、カザフではプロのフィギュアスケートを見る機会がほとんどないから企画されたものだそうです。

しかし今私がいるのはカザフスタン。何かイベントがあれば行こうと思っていたところにD10 worldの開催のニュースが舞い込んできました。カメラの才能もある彼は、自分の公式アカウントとは別にD10 worldというアカウントで自分で撮った写真を公開していました。この展覧会では彼の演技の映像や写真、歌(自分で曲を作っていたのです)、そして彼が撮った写真などが展示されています。入場料は無料でした。

会場に入るとすぐに聞こえてきたのが映画『グレイテスト・ショーマン』のオープニング曲。今年のアイスショーのオープニングでゲストスケーターと共に披露したのがグレイテストショーマンだと聞いていたので、これか!とうれしくなりました。今回の会場の真ん中にもその時に彼が着用した衣装が展示されています。 バーナムさんそのままだ…。会場奥のスクリーンに、このアイスショーの様子といくつかの大会での演技、ファンと触れ合う様子(日本からのファンもたくさん写っていました)やインタビューなどがずっと流れていました。前に椅子が置いてあるのでずっと見られます。演技は本当に素晴らしいものでした。かなりのジャンプ力と、優美な動き、そして高い表現力。

入り口すぐのところにはこの展覧会の説明と彼の経歴が英語、ロシア語、カザフ語で書かれたパネルが置かれています。そのパネルの横に椅子とマジックペンが置かれていたので何だろうと後ろに回ってみると、 ファンからのメッセージが。一部は重ねて書かれているので読めなくなっています。人のメッセージを読むのもいかがなものかと思ったのですが、すこし目を向けただけで英語、ロシア語、カザフ語はもちろん、中国語や韓国語なども見えました。そして「Sorry us, bro(私たちを許して)」という文字も目に入ってきます。今回の事件は、カザフの警察の腐敗など(車の部品が盗まれる事件が多発しているのに放置していた)も明るみに出しました。彼は亡くなってからも国を変えていく力を持っているのかもしれません。 入って左手の壁には彼の写真と、著名人や友人からのメッセージが貼られていました。写真で民族模様の入った衣装を着ているように、韓国系カザフ人である彼はカザフスタンという国を背負っていました。ソチオリンピックでは唯一のカザフのメダルだったこともあり「カザフスタンの英雄」と呼ばれています。

また、入って右手奥には、彼のインスタグラムの動画を見られるコーナーも。そして右手手前には、彼が撮った写真の展示コーナーが。 「自分をどのように表現するか、どんなふうに夢を追うか、そういうものが今後数年どんな世界で生きていくかに影響する(意訳)」
左上に高橋大輔選手もいますね。

スケートシューズも飾られていました。かなり使いこんでいるのがすぐにわかります。

出口のところで、寄付をお願いされました。5000テンゲを寄付するとTシャツが、50000テンゲでパーカーをプレゼントしているそうです。心ばかりを寄付の箱に入れると「ここに記帳してくださいね、そしてよかったらお菓子をどうぞ」とお姉さんに言われます。少し冷めているけれどふわふわな揚げパンの味はしばらく忘れないだろうな、と思いながら帰途につきました。まとまらない考えをしながら、バス停まで歩きます。あまり広くないスペースだと思ったのですが、気が付けば1時間も展覧会の中で過ごしていました。会場の中は、彼の温かい人柄に包まれているようでした。もう少し早く知っていればなあ。

Пока!