馬耳風風 (ばじ カザフう)

2016年7月末〜 2018年8月 モスクワ/2018年10月〜 カザフスタンのアスタナ

絵葉書を探して

Привет!

少し高い建物に上ると遠くのほうに見える草原や、町のところどころに突然現れる馬のオブジェなどに毎日触れていると、ああここには騎馬民族が暮らしているんだな、と実感します。ですが、日本に住む人たちも稲作が入ってくるまでは狩猟民族で移動して暮らしていたはずです。大陸顔だといわれる私ですが、新しい土地に行きたいという気持ちが強いのでどちらかというと騎馬民族の人たちに精神は近いのかなあと思っていました。

…思っていた私が甘かったのはこちらに来てすぐ分かりました。

小学生のころから、どこかへ旅行に行くと実家に絵葉書を送るのが習慣です。時々その土地で郵便局やポストが見つけられず、ホテルから出したり家に帰ってから出したりするのですが、とりあえず現地でポストカードはすぐに買うようにしています。アスタナに来た時もすぐに送ろうと絵葉書を探しました。絵葉書といえば、おみやげ物屋さんのレジ横に必ず置いているものだというイメージが強かったのですが、アスタナではそもそもおみやげ物屋さんが見つけられませんでした。モスクワでは路上のキオスクにもおみやげ物屋さんがあったのに。

アルチョムバザールの靴屋さんコーナーの横におみやげ物屋さんが2軒あったので、入ってみましたが民族衣装やユルタの模型、そしてマグネットなどはかなりの種類があるものの、絵葉書はありません。お店の人に聞いてみても「残念ながら置いていませんね」と言われるばかりです。郵便局にも足を運んでみましたが、局員は「絵葉書はありませんが、切手ならありますよ。買いますか?」と少しずれた答えを返してくるだけでした。その買った切手をどこに貼れというのでしょう。

ほかの郵便局では「置いていませんね」と言われただけだったので、思い切って「どこで買えますか」と聞いてみました。少し面食らった様子の局員さんは「…お花屋さん?」と少し疑問形で答えてくれました。その日以降、私はお花屋さんを見つけるとドアを開けるなり「絵葉書ありますか」と尋ねる変なお客と化します。ただ、どこも置いているのは「誕生日おめでとう!」という文字が入ったメッセージカードばかりで「もっとこう、町の写真が載っている感じの…」という追加注文をするとお店の人は黙って横に首を振るだけでした。

モスクワでは本屋さんでも売ってたな、と思い出したのでありとあらゆる本屋さんや文房具屋さんにも聞いて回りました。ここもほとんどお花屋さんと変わらないラインナップです。一度、店員のおばあちゃんに「…絵葉書って何ですか」と聞かれたときは絶望に近いものを感じました。
「…誰かに送るものです。手紙みたいな。絵や写真が載っています」
「封筒のことですか?」
「いいえ、カードのような形でのものです。すみません、ありがとうございました」
…もしかして絵葉書という存在が消えた世界に来てしまったのでしょうか。ほかは私の知っている世界なのに、絵葉書だけ消されてしまっているような違和感を感じます。

それでも手掛かりが欲しくて、こちらで日本人に会うたびにアスタナにおける絵葉書の存在について尋ねてみました。すると皆さんは口をそろえて言うのです。  

「あー、騎馬民族の国だから仕方がない」と。  

そもそも、住所を持たない歴史が長かったから、手紙を書く習慣がほとんどないというのです。何かを送るとなると荷物が主流のようです。そういえば郵便局にいたお客さんも箱を抱えている人がほとんどでした。決まったところに人が住んでいるという考え方をしていた私はやはり農耕民族だったのです。

それでもまだあきらめられずに絵葉書を置いていそうなお店があれば探してしまう日々が続いていました。そんなある日、以前行ったときにはお昼休憩中で閉まっていたユーラシア・バザールの中にあるお土産物屋さんが開いていたのです。中に入っていつも通り「絵葉書っておいていますか?」と聞いてみました。するとお姉さんは「ありますよ!」と言って奥から出してくれたのです。 それがこちら。8枚入りの絵葉書セットです。やっぱりこの世界は私が知っている世界だった!探し物を見つけた以上に安心感がこみあげてきて思わず泣きそうになりますが、絵葉書を出しただけで客に泣かれたらこのお姉さんも不審に思うので、なんとか我慢して一言「ずっと探していたんです」とだけ言いました。しかし、思ったより細長かったので「これって外国に送れますよね?」と聞いてみました。お姉さんは当然だ、という顔をして「切手を貼れば送れますよ」と教えてくれます。切手は郵便局にあることが確認できているので、もう不安要素はありません。

家に帰ってとりあえず広げてみました。 その中の一枚を選んで、さあ書こうと裏返します。 …どこに文字を書けばいいの?慌てて裏返しますが、表面にはもちろん写真しかありません。え、写真の上に書けばいいの?これもしかして絵葉書じゃなかったの?

ほかの絵葉書も裏返してみました。 こちらはシンプルな説明で書くところがたくさんあります。結局8枚中絵葉書として使えそうなのは4枚しかありませんでした。打率の低さ。三言語で説明が必要だからでしょうか。

一枚仕上げて、きちんと住所を書き、やっと郵便局へ向かいます。 モスクワと同じように入り口に置かれているパネルを操作し、目的別に番号札が発行されます。私の番号は756番でした。電光掲示板に出ている現在の番号は…736番です。え、20人も待たなきゃいけないの…?と思っていたら、局員さんが「次、755番の方ー」と叫びました。どうやら私は2番目のようですが、あの電光掲示板の存在意義は何でしょう。

絵葉書は200テンゲ(66円ほど)で日本まで送ってくれるようです。ちなみにほかの国にも同じ値段で送ってくれました。  

そしてこちらから送ってから2週間と3日、ついに実家から「届いたよ!」という連絡が来ました。ちゃんと郵便が機能していることが確認できてよかったです。

さあ、次はうちのポストがどこにあるかを探すミッションです。健闘を祈ってください。

Пока!